甘酸っぱい思い出が蘇る映画がある。
それは映画の内容ではなくその作品にまつわる思い出があるからだ。
俺が中学二年生の時の話だ。
クラスメイトに初恋のT子がいた。
まあ、初恋と言っても片思いだ。
T子との会話中にふと映画の話になった。
現在は映画中毒だと自覚するほどの映画好きだが当時はテレビでやっている映画をたまに見るくらいで特に映画に対して思い入れなんかは無かった。
T子は最近見た映画がとても素晴らしくて良かったと熱弁していた。
それを聞いた俺は少しでも気持ちを共有したかったのか週末に小遣いを握りしめてレンタルビデオ店に行った。
今では考えられないが当時はVHSのレンタル料金は1泊2日で1000円位はかかったものだ。
そこで初めて借りたタイトルは「スタンド・バイ・ミー」だ。
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簡単に言うとこの作品は男の子のための映画だ。
なぜこれにT子が感激したのか少々疑問に思ったが楽しく鑑賞した。
早逝してしまったリバー・フェニックスの刹那的な美しさは目を見張るものがあるし、ロブ・ライナー監督が描いた世界観も素晴らしかった。50年代ヒット曲のセレクトセンスも作品を盛り上げた。
後にサントラ盤まで買ってしまった程好きな作品だ。
何より原作であるスティーブンキングの作品名「THE BODY」を映画化にあたりスタンド・バイ・ミーに変更したのは良い判断だと思う。
ちなみに「THE BODY」の直訳は「死体」だ。
リバー・フェニックス演じるクリスがゴーディに盗みを告白するシーンは心を打つし、劇中劇で展開する復讐シーンは笑いを誘う。
「24」のジャック・バウアーことキーファー・サザーランドのヤンチャな演技も必見だ。
この作品を見終えた翌週に早速T子に報告した。
T子と映画談義に花が咲いたのは言うまでもない。
けれど明らかに男向けの作品なのに、なぜこの作品が好きなのか聞くことが出来なかった。
もちろんこの作品は素晴らしい出来なので女性でも好きな方が沢山いることは理解している。
それでもどこか心の隅に引っかかっていた。
このことがきっかけで自分は映画を見るようになった。
その映画好きは今でも続いている。
その後もT子と映画の話を時々することはあったが、ある日こんな噂を聞いた。
T子には年上の彼氏がいて、いつも放課後はその男の家に行っている。
そんな話だった。
男は大学生らしく映画好きとのこと。
その話を聞いた後、疑問に思っていたことを勇気を出してT子に尋ねた。
スタンド・バイ・ミーは彼氏の大好きな映画だと教えてくれた。
昨年末に久しぶりにこの作品を見返してみた。
甘酸っぱい思い出が蘇った。
この時飲んでいたワインは甘口のはずだが、なんだか苦かった気がした。