つい先日の話だ。
地元にめちゃくちゃ有名なパンケーキ屋ができた。
そういった情報にあまり興味が無いから、いつできたのかはわからないけれど、仕事などで近くを通るといつも長い行列があるのは知っていた。
その行列の正体が某パンケーキ屋だというのは、つい先日知ったことだ。
ここ最近、猛暑日が続いている。
日中は36℃を超えるような猛烈な暑さだ。
その某パンケーキ屋はコンクリートだらけの街の中心部にあって、店の前にできる行列には、情け容赦なく直射日光が浴びせられている。
私がその前を通りかかったのは午後2時ごろ。
一番気温が高くなる時間帯でもある。
その長い行列の中ほどあたりに小さなお子さんを二人連れた若いご夫婦がいた。
ぐずる3才くらいの女の子は、お父さんが抱っこしてなだめつつ、もう一人のおそらく乳飲み子はベビーカーの中で眠っているように見えた。
乳飲み子が眠るベビーカーにぐったりともたれかかるようにしているお母さんは、素人の私からしても一見して具合が悪そうに見えた。
それだけではなく、そのお母さんはお腹が大きいのだ。
ゆったりとしてお腹が目立たなそうな格好をしていても、遠目からでもはっきりと妊婦さんであるとわかるくらいにお腹は大きかった。臨月と言われたら「やっぱり」と思うくらいに大きなお腹だった。
そのとき私は知人と待ち合わせをするためにパンケーキ屋の向かい側の歩道にいたのだが、お腹の大きいお母さんの具合がだんだんと悪くなるのをなにもできないまま見つめていた。
私がその待ち合わせ場所に到着してすでに10分は経っているが、パンケーキ屋の行列は遅々として進まず、お店の中に入れるまでにどれほどの時間がかかるか予想もつかない。
直射日光をもろに浴びながら、お腹の大きいお母さんは少なくても30分は並んでいると思われた。
全く進まない行列から考えると、もっと長い時間並んでいるかもしれなかった。
そうこうしているうちにぐったりとベビーカーにもたれかかっていたお母さんは、とうとう地面にへなへなと座り込んでしまった。
店内からその様子がおそらく見えていたのだと思うが、店員が飛び出てきてお母さんに声をかけて店内に招き入れた。
その家族より先に並んでいた複数の人たちも、具合の悪さに見かねて譲ったようだった。
そのタイミングで待ち合わせしていた知人が来たから私はその場を離れた。
なのでその後妊婦さんがどうなったかはわからない。
パンケーキ屋は南側に向けて店が構えられているから、店前に行列を作ると直射日光を遮るものは何もない。
小さな店なので店内で待つということが物理的に不可能である。
天気予報で最高気温が35℃を超えると言われていたし「高温注意情報」も連日発令されていた。
そういう悪条件が重なる中で身重な妊婦さんが、長時間並んでまでパンケーキを食べる必要があるのかどうかという疑問はある。
お盆の連休を利用して他の地域からやってきた人で、どうしてもそのパンケーキを食べたかったかもしれない。
そのパンケーキ屋さんは人気店であるものの、あちこちにあるような店ではないから、多少の無理をしてでも入りたかったかもしれない。
そういった個々の事情は当然あるだろうと思う。
けれど結果として身重なお母さんは地面に倒れ込むようにして座ってしまうくらいに具合が悪くなったわけだ。
そういったリスクを負ってまで食べたいほどの価値が、あのパンケーキにあるのだろうかと考えたが私には結論が出ない。
もしかすると子供がどうしても食べたいと駄々をこねたかもしれない。
あの家族の事情はまったくわからないから全て想像の域を出ない。
とは言っても旦那さんが一緒にいたのだから、身重な奥さんの体調を気遣って、もっと早い段階で何らかの判断を下すべきだっただろうと思う。