もう10年以上前の話になる。
当時の上司というのが変わった人で朝令暮改というか言っていることがコロコロと変わりそれに伴って廻りを巻き込んで引っ掻き回すそんな人だった。
仕事そのものはそれなりに出来た人だったらしいが出世して人の上に立つようになってから変わったそうだ。
俺はその人がすでに管理職に付いた後に就職したので過去の話は又聞きになる。
人の上に立つというのはなかなかストレスになるもので向かない人にはとことん向かない。
その精神的負担で潰れてしまうこともあるくらい人の上に立つというのは厄介な仕事でもある。
その上司も最初は相当に悩んだらしい。
現場一辺倒で営業の能力はずば抜けて優秀だった。
その手腕を買われて出世するのだが人をまとめて上手いこと使う能力は今まで培ってきた営業力とは一致しない。
人間関係に悩んだ末に円形脱毛症まで発症して長期の休みを取るような事態を招いた。
6ヶ月ほど休んで復帰したらしいのだがその姿は休養前とはうってかわって別人のようだったらしい。
休養中にいわゆる「自己啓発セミナー」にはまっていたらしい。
各種のセミナーをはしごしたり意識高い系の書物を読み漁ってそれまでとは全く違う人間になって職場に復帰した。
俺はこの上司が現場に復帰した以降しか知らない。
長期休養前の人格を知らないから比べようも無いのだが俺が感じた第一印象は「うそ臭い」だった。
自画自賛で大変申し訳ないが俺のこの手の嗅覚はかなり正しい。
胡散臭さや嘘臭さは案外鼻につく。
この鼻のお陰で何度も助けられたことがある。
話を戻す。
ここからは俺の推測になる。
実際にこの目で見て一緒に働いていたからこそよく分かるのだがこの上司は自分に自信が無いのである。
上の立場になれば部下を叱責しなければならない場面もある。
その時に自分に確固たる自信がないから過度なストレスを受ける。
簡単にいえばこんな自分が偉そうに誰かを叱っていいものなのかという不安が湧き起こる。
自分にしっかりと裏打ちされた確信があれば堂々と叱責もできるのだろうがそれがないから自分が不安になる。
自分に自信が持てないから何かに縋りたくなる。
それが「自己啓発セミナー」だったり「意識高い系の書物」だったりする。
これさえあれば安心といったような甘言に弄されてそれらにのめり込み傾倒していく。
なかったはずの自信が誰かに与えられてあたかもそれが自分の自信であるかのように振る舞う。
それはとってつけた借り物の自信なのだが当の本人は陶酔してしまっているのでその無意味な自信を根拠に部下を叱責したり指導したりする。
ごった煮のように様々なビジネス本も読んでいたりするのでやたらに改革をしたり改善点の提出を求めたりする。
そういった一連の改革案は何かにインスパイアされて言い出したことなので時間がかかると燃料切れを起こす。
本人もそれに気がつくらしく燃料が切れそうになるとまた別のビジネス本だったり自己啓発本を読んだりして燃料を補給する。
最初の燃料と違うものを注入するから混ざっておかしくなる。
部下の俺達は毎回だから慣れっこだとはいえ、さすがにウンザリしてくる。
早い時には朝礼で言っていたことが昼過ぎには変わっていたり、長くても一ヶ月は持たなかった。
しかも当人は「変化」することが何よりも素晴らしいと思っているらしく我々がコロコロ変わる方針について抗議をしても「立ち止まっていては何も変われない」としたり顔でそう言った。
こういう上司の下で数年仕事をしていると本来必要のないスキルが身につく。
言われたことをやっているように見せながら、おおよその筋道をこちらで立て完成図を予想しながら上司にバレないように仕事をする技術が身についた。
いとも簡単にちゃぶ台返しをされていてはたまらない。
だからこの上司の下に着いた連中は逆に仕事ができるようになった。
それがまわりまわって人材育成に尽力したと上司が評価されたと聞いた時は流石にモニョった。
俺が以前のエントリーで度々「意識高い系」を揶揄したりするのはこの上司の思い出がそうさせているに違いない。
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