ネットの海の渚にて

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静岡おでんは夏の食べ物

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まだ、昭和の時代。
俺が小学生だったころの話。

町の外れ、海のすぐ手前に市営のプールがあった。
バスに揺られて約30分。
土曜日の半ドン授業の後は、友達数人と連れ立ってそのプールによく行った。

市営のプールでありながら流れるプールになっていて、学校のプールとは楽しさが段違いだった。
隣にはもうひとつ普通のプールがあって、どういうわけかその水はとても冷たかった。
流れるプールの混雑ぶりとは打って変わって、そこはシーンとしていてなにか別世界に来たような感覚があった。
そのころの俺は背泳ぎが苦手で、どうしても上手くなりたかったから、時々友達と離れて冷たい水のプールで一人で練習していた。
水面に一人でプカプカ浮かびながら、夏の高い空をぼんやり眺めているのが好きだった。

真夏でも唇が真っ青になるくらいの冷たい水だったから、泳ぎ終わった後は体が冷えきっていた。

プールを出ると道端に10件ほどの小さな商店が並んでいる。
他の地域では信じられないと思うが我が地元の静岡は真夏でもおでんを食べる。

真っ黒なおつゆに浸ったおでんは基本的に駄菓子屋で食べるのだ。
駄菓子屋の店先におでん鍋が置いてあって、その周りにイスもある。
そこに座って串に刺さったおでんを食べる。
お勘定はおでんの串をお店のおばちゃんが数えてくれる。

串の先端が赤く塗ってあるのは50円。それ以外は30円のおでん。
かき氷を食べている人の横でおでんを食べる静岡スタイル。
大人になるまでこの文化が当たり前すぎて、何も疑問に感じていなかったけれど、他県のお客さんを駄菓子屋に連れて行ってこの文化を説明したら大層驚かれた。



おでんといえば普通イメージするのは冬だろう。
だけど静岡人は違う。
むしろおでんは夏のイメージなのだ。
プールで冷えた体を暖めるためにおでんを食べるのは静岡で生まれ育った子供の正しい思い出なのだ。
嘘だと思ったら、近くの静岡出身の者に聞いてみるがいい。
おでんの串のちょろまかし方を教えてくれるはずだ。


この静岡おでん、特徴がある。
これは地域でかなり差が出るが、静岡の中部地方は甘い味噌を付けて食べる。
おでんにカラシではなくて甘じょっぱい独特の味噌を付けて食べるのだが、これは静岡市を中心とした文化で少し離れるともう流儀が違う。

実はこの甘い味噌、俺は苦手だ。
この味噌はトッピング扱いなので付けなくても構わないが、本物の静岡おでんを食べたいのなら甘い味噌を付けて食べるべきである。(俺は付けないが)


静岡おでんがいつの間にか全国的に有名になって、観光ガイドにおでんの名店として乗っているところがあるが、地元の人間から言わせてもらうとちょっと違う。
もちろん有名店のおでんは美味しい。
けれど本来の静岡おでんは駄菓子屋で食べるものなのだ。
ただ残念ながら子供の頃に通った駄菓子屋は軒並み閉店してしまって、昔ながらのおでんはなかなか食べられなくなってしまった。
それでも探せば駄菓子屋や文房具屋の店先で子供相手におでんを置いてある店はまだある。

もし、静岡に観光でこられるなら有名なおでん屋もいいけれど、住宅街にポツンとあるような駄菓子屋の店先で、瓶のチェリオなんかを飲みながらおでんをつまんでもらいたい。
甘い味噌をたっぷり付けてね。
今週のお題「調味料」