ネットの海の渚にて

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電気屋勤務時代に見た クレジットの現金化の手口

これから書く話は相当昔の話だから、現在とはいろいろと違うところが出てくると思うけれど、このあいだ元同僚に話を聞いたら今も手口は若干変わったとは言え、同じようなことは繰り返されていると教えてもらった。
不景気と言われはじめて、もう20年以上が過ぎたわけだけれど、未だにその出口は見えてこない。
貧困層を狙った犯罪、あるいはそれに類する行いっていうのは日進月歩とはいえ、昔のケースだからとしても参考になることもあるのではないかと思ったから記事にすることにした。


俺は家電販売の仕事に10年ちょっと携わっていた。今回はその現場で実際に体験したことだ。

金に困った多重債務者が、換金率の高い商品をクレジット契約で買おうとするのは、おそらく皆さんが想像しているよりも多い。
俺が勤めていた店は従業員が10人程度の中型店だったが、週末にはそういった思惑で来店する客が最低でも4~5人は来ていた。


14~15年前の話だから今とは手口が違うかもしれないが、当時はソニーのムービーだったりNECのノートパソコンだったりを指名買いしてくる客がいた。(VAIOも多かったな)
クレジットを現金化する手口を指南する業者に、指定された商品を買いに来ているのだろう。皆が皆、同じ商品を欲しがるからすぐにわかる。
普通の客ならどれを買うか店頭で逡巡するのが当たり前だが、そういった客は来店すると一目散に店員に駆け寄って商品の型番を言う。そして必ず、今日持ち帰りできるか聞いてくるのだ。
言われた商品が取り寄せになるような場合は「それならいいです」と言ってそそくさと帰ってしまう。
面白いのは今さっき帰ったはずの客が、10分後にしれっと来店して今度は「○○のノートパソコンなら持ち帰り出来ますか?」と聞いてくる。
さっきはソニーのハンディカムが欲しかったはずなのに今度はパソコンですか……。となる。
そしてこういった客は100%クレジットを利用したいと言う。




簡単に流れを説明する

  • 買取業者が指定した商品を買いに来店する。
  • 換金したいから持ち帰りができるか確認する。
  • 在庫があった場合支払いは「クレジットで」とくる。
  • 店側が契約しているクレジット会社の申込書に記入してもらって、身分証のコピーと共にクレジット会社にFAXを送る。
  • 大体、15分~30分程度で与信(クレジットの可否を審査する部門)から結果の連絡がくる。
  • 与信を通過してクレジットの審査に合格であると連絡が来た場合、晴れてその商品をお客が持ち帰ることになる。
  • 持ち帰った商品を買取業者の元に持っていく。
  • 買取業者は販売価格の6掛けくらいで買い取る。
  • お客はその場で現金を受け取る。

ざっとこんな流れだ。
当時一番人気のあったソニーのハンディカムは15万円ほどだったから、一回で9万円ほどの現金が手に入ったわけだ。
信用情報が各所に共有されてしまう前に、何件かの電気屋をはしごして一気にクレジットを通して商品をかすめ取った後は、自己破産なり夜逃げなりしてしまうという手口だ。一日のうちに何件で成功するのかは知らないが、4~5台手に入ったらそこそこの金額になる。

このやり方が今も通用するのかは知らない。
そもそもこういった思惑で来店する客はたくさんいたが、実際に与信が通る客の割合は1%も無かった。
なぜ多重債務者なのに審査に引っかからないことがおこるのか、よくわからなかったけれど信販系だったり銀行系だったりで当時はクレジットヒストリーをそれぞれ管理していた事で、他社で焦げ付いても違う系統のクレジットだと通ってしまうことがあったらしい。
俺は専門家じゃないから詳しくわからないけど、店に来ていたクレジットの担当営業マンがそんなことを言っていたのを憶えている。
しかも電気屋が扱っているクレジットというのは、松下や東芝や日立やソニーのような電機メーカーのクレジット部門だったりして、余計に多重債務者の信用情報に疎かった事情もあったらしいが定かではない。


そういう客が毎週末ちょこちょこ来るのだが、極々稀にクレジットが通ってしまうことがある。こうなると一気に面倒なことになる。
「あそこの店はクレジットが通るぞ」という情報がそういった人たちの間に広まるらしく、いつもなら4~5人だったのが一気に20~30人も来てしまうことになる。
こちらとしたらひと目で換金目的であると看破していると言っても、一応お客さんなので無碍にもできるわけもなく、粛々とクレジットの申し込みをしてもらうわけなんだが、どうやっても一人あたり30分はかかってしまう。
そんな客が20人~30人来てしまうのだから正直に言って迷惑だった。

毎回毎回クレジットの申込書に記入してもらって免許書のコピーを取り、クレジット会社にFAXを送って与信を待つ。
この一連の行為でどうしたって30分は取られる。
そしてほぼ100%与信は通らないのだから全てが無駄になる。
こんなのを一日20人もやっていたら本来の仕事ができない。


こんなことが一月も二月も続いたから、さすがに困ってしまって店長以下全員で話し合った結果この手の客が来た場合、在庫があったとしても切らしていると伝えることに決めた。
こう書くと本物の客が来た場合どうするんだと疑問に感じられると思うが、換金を目的に来る客はどれもテンプレのような話をするからすぐに分かる。
こっちがおもわず笑ってしまうほど皆同じセリフを喋る。
だから間違いはおこらない。

皆さんにお願い

先日元同僚に話をきいたところ今は携帯電話がターゲットになってるそうだ。
手口も聞いたけれどもちろんここでは書かない。

多重債務者を狙った貧困ビジネスというのは昔も今も存在している。
クレジットの現金化というのは、確かに瞬間的には現金を手にすることができる。
しかし足元を見られて新品未開封であるにもかかわらず買い叩かれる。
その後、借金だけはきっちり全額残る。
切羽詰まった多重債務者の心の隙につけ込む悪質な商売であるのは間違いない。


このブログを読んでくれている方々にお伝えしたいのは、この世にはこういった事案が実際にあるということです。
万が一にも被害に遭わないように、このようなことが実際に行なわれているということを、知識の片隅にでも置いていただけたら幸いです。