ネットの海の渚にて

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北朝鮮有事が迫っているからGPSの精度がおかしいというのは本当?

GPSの話題が出ていたのでちょっと昔話など。
www.nubatamanon.com

確かにTwitterなんかを検索してみるとGPSがずれてると騒いでいるアカウントがちらほらいる。
結論から先に言ってしまうとこれはおそらく勘違いだ。


GPSについてざっくり説明するとこれはアメリカが軍事目的で打ち上げた人工衛星の名称で、本来の目的はあくまでも米軍が世界中で活動する際に自軍の位置を正確に把握、共有するために開発されたものである。

本来はゴリゴリの軍事用途のものなのだが、常時測位情報を送信しながら衛星軌道上を周回しているので、民間にも開放しようということになり我々がカーナビやスマホで利用することができるようになったという経緯がある。

但し、有事の際に米軍の都合でGPSの精度をわざと落として、大きなズレが生じるように調整することは実際に過去に起きた出来事である。
おそらくこの時の記憶が今回のような噂の元になっているのだろうと私は考えている。


私の記憶が確かならば最初にそういったことで騒ぎが起きたのは湾岸戦争のときだ。
この時はまだGPSを用いた機器を一般人が使用するというケースは稀だった。
一部の業種でようやく取り入れ始めていた頃でまだまだGPSは一般的ではなかった。
それでもニュースなどでGPSの誤差が大きくなって一部の民間企業が困っているといった報道があったのを憶えている。
一般人がGPSを利用する代表的な機器であるカーナビを手に入れるのはもう少し後の話になる。


私が初めてカーナビを購入したのは22年前だったと思うが、その頃のカーナビの説明書には「米国の都合でGPSの誤差が大きくなることがあります(意訳)」みたいな注意書きがあった。


その後、確か97年ごろのコソボ紛争のときにまたGPSの大きなズレが生じてカーナビが使い物にならない時があった。
これらはオカルトでもなんでもなくて、米軍が軍事行動する際に、自由に使えるGPS情報を敵国に軍事利用させなくするため、意図的に誤差を大きくするのは軍事的に有効な手段として実際に実行されていた出来事だ。
こうなると戦争に関係ないところで平和利用している民間人も困ったことになる。
余談になるが私達が自由に使っているGPS信号は民間用に開放されている帯域のもので、米軍が使っているのは軍事用帯域であり信号が違う。有事の際に誤差を大きくさせるのは民間用だけなので自軍は影響を受けないということになる。




そもそも出たての頃のカーナビは平時でも誤差が大きかった。
並行する数十メートル離れた道を走行中と表示されるくらいは普通の話で、海岸近くの道路なら海中を走っていることにされるのも頻繁にあった。
トンネルに入れば動かなくなったり、ビル街に入るとあらぬ方向に位置情報が飛ばされたりして、測位がGPSのみだった初期のカーナビは今では考えられないくらい当てにならないものだった。


次世代のカーナビではGPS情報だけでは誤差が修正できないので、マップマッチングという機能や速度計の信号を取り出してナビに接続したりする涙ぐましい努力が行われてきた。ジャイロが付いたのも多分この頃。


そのうちFM電波を用いた補正信号が送信されるようになって一気にカーナビの精度が上がって喜んだ記憶がある。
元々米軍が民生用に開放しているGPS信号は誤差が数メートルから数十メートルある。
その誤差をなんとか補正してどうにか正確な位置情報を得ようとする努力を今もなお国を挙げて現在進行形でやっているのであって、準天頂衛星みちびきを打ち上げたのはその一環である。
JAXA | 準天頂衛星初号機「みちびき」


アメリカのGPSが民間用帯域とはいえ、事実上自由に使えるようになっているにもかかわらず、ロシアや中国がわざわざ自前のGPSを打ち上げているのは有事の際に米軍によって恣意的に使えなくされてしまった場合に大混乱に陥るからだ。
なにせ今あるGPSはアメリカのもので、それを無料で利用させてもらっているわけだからアメリカの胸先三寸でいきなり使用できなくなることだって十分ありうる。
現在の軍隊は各ユニットの正確な位置情報をお互いが共有しているというのが前提になっているので、もしこれが失われると軍事行動に大きな制約が課されることになる。
だからこそ高いコストを払って自前のGPSを打ち上げているわけだが、これも自国を守る安全保障の重要な一つである。


さて、話を最初に戻すが、じゃあ朝鮮半島有事がささやかれている今、米軍が民間用のGPS精度をいじっているか?ということになるがおそらくそれはない。

2000年頃に当時のクリントン大統領がすでにGPSは世界中で使用されており、これをアメリカの都合によって度々精度を狂わすのは、GPS利用を広く促す障害になるとして、今後有事の際も調整は行わない旨の発表をした。
この発表が守られているのであればGPSの精度は以前と変わらないはずであり、さらに私が持っているスマホやナビも特段平時と変わらぬ精度を保っているのでやはりツイッター上でGPSがおかしいと騒いでる方たちは気のせいか、機器の故障、またはGPS電波が極端に入りづらい場所にいるかということなんだろうと思う。

しかし、アメリカが有事の際もGPSの精度をいじらないと発表したからと言って、必ずその約束が未来永劫守られるわけではないので、もしかすると近い将来湾岸やコソボ紛争のときのようにGPSが使いものにならないくらいの誤差が生じる可能性は低いだろうが決してゼロではないと理解しておいたほうが良いだろうと思う。
(ただし米軍がGPS精度をいじったとしても現在は補正電波もあるし、みちびきもあるので当時ほど大きくは狂わないはず)