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ネットの海の渚にて

私の好きなものを紹介したり日々のあれやこれやを書いたりします

私が実際に見た「ご近所トラブル」の話

以前勤めていた電気屋のすぐ近所に、建立されて数百年という由緒正しいお寺があった。
お寺の裏側から裏山に至るまでの広大な敷地には、お墓がびっしりと立っている。
かなりの数の檀家を抱えた大きなお寺で、朝方は数人のお坊さんたちの読経の声が漏れ聞こえてくるし、夕方になると鐘の音も聞こえてくる。
「ゴーンゴーン」という鐘の音が聞こえてくると、そろそろ今日の仕事も終わりかぁとしみじみした。

お寺の周りは近所の大農家の方が、ぐるりと囲むように土地を所有していて田んぼが広がっていた。
ある時その大農家の主であるおじいさんが亡くなって状況が一変した。
詳しいことは分からないが、噂によると相続の関係で一部の土地をある不動産屋に売り払ったとのこと。
その田んぼは、やがて分譲地となって10数件の新築が建つことになった。



今回書こうと思ったのは、その分譲地に引っ越してきたKさんの話だ。
Kさん一家はご夫婦と中学生の娘さん、小学生の息子さんの4人暮らしで一見平凡な家族だった。
新築に越してくるときに私が勤めていた電気屋で、いろいろなものを買ってくれたので名前も覚えていたし家族構成も把握していた。

このKさん一家がおかしなことを言い始めたのは、引っ越ししてきてから半年ほど経ってからだった。
まず最初に言われたのは配達の際に店の裏で荷物の上げ下ろしをするのだが、その音がうるさいと言われた。
確かにトラックに荷物を上げたり下ろしたりするので音はする。
間違いなく音はするので申し訳ないと思ったのだけれど、当店とKさん宅は歩いて5分はかかる距離にある。
なによりKさん宅よりも当店に近いお家は、ざっと見ても50件はある。(そもそも店の裏は住宅密集地)Kさん以外にそのようなクレームをもらったことがない。

なぜそんなに離れたKさん宅からクレームが来るのか不思議だったので、後輩にいつもと同じように上げ下ろしの作業をさせながら、Kさん宅の玄関先まで行って音が聞こえるか確かめた。
まぁ予想どおり聞こえなかったわけだが、このことをKさんに指摘してもこじらすだけだという判断で、今後は十分に気をつけますという文書をKさんに提出して矛を収めてもらった。


Kさんはそういう人だから当店だけではなくて、当たり構わずクレームを入れていた。
その中でもインパクトがあったのは、先に説明した由緒正しいお寺に対して入れた苦情だった。
そこの和尚さんはここだけの話、かなりのオーディオマニアで私が担当しただけでも数百万円をスピーカーやアンプ等につぎ込む上客だった。
だから頻繁に御用聞きと言う名の雑談をしに行っていたのだが、その中でKさんの話を聞いた。

ある日突然Kさんが「お線香が臭い」と言って怒鳴りこんできたとのこと。
朝の読経の際にお線香を焚くのだが、その煙が家に入ってきて洗濯物にニオイが付くからやめろと言われたそうだ。
それだけではない。
夕方に若い修行中のお坊さんが突く鐘の音もうるさいからやめろとのこと。

和尚さんはびっくりしながらも、なだめてその場は帰したそうだが、その後もちょくちょく怒鳴りこんできてその度に辟易していたそうだ。

数百年そこで途切れること無く、続けられていた行事を、臭いからうるさいからやめろと言えてしまうことに私は驚いた。

私は法律の専門家では無いから、こういう場合に調停する法律だったり条例があるのかもしれない。
だけれども個人的感覚で言わせてもらうなら、元々そこにはお寺があってそれをわかった上で引っ越してきたのだから、お線香のニオイや鐘の音くらいは予想の範囲内だったとしか思えない。
お寺の目と鼻の先に住むのだから、それくらいの想定はしてしかるべきだと思う。

結局その騒動は町内会長と檀家の代表が、Kさんとお寺の間に入ってどうにか取り持ったらしいが、そこにある程度の金銭の授受もあったらしいが定かではない。

しかしこの噂がひろまってからというもの、近所中からKさん一家が白眼視されたのは言うまでもない。
町内の催し物でも度々トラブルを起こしていたらしく、それも一切声がかからなくなったそうだ。

実はKさん一家と書いているが、問題を起こすのは奥さん一人で、むしろ旦那さんは後になって謝りにくるようなこともあって本当にお気の毒だった。
子供の学校でもいろいろやらかしていたようで子供さんも気の毒だった。

奥さんは常にイライラしていて仕事で近くを通ると大抵金切声が聞こえた。

一番可哀想だと思ったのは、Kさん宅の斜め迎えに引っ越してきた、子供が生まれたばかりの新婚夫婦だ。
赤ちゃんの泣き声がうるさいという、執拗なクレームを毎日のように入れられて、若い奥さんは実家に帰ってしまった。その後しばらくして旦那さんも見かけなくなってしまった。しばらく空き家になっていたけれど売家の看板が立てられていたから手放したんだと思う。
結局立ち退くまでに追い込まれたわけで、なんとも言えない気持ちになったことを憶えている。


私が実際に見聞きした今回のようなご近所トラブルは、もしかすると読者の皆さんに降りかかるかもしれない。
そういう意味でも自分だったらどうするかということを、準備しておくことは決して無駄にならないと思う。