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ネットの海の渚にて

私の好きなものを紹介したり日々のあれやこれやを書いたりします

久しぶりに再会した女の子はびっくりするくらい『大人の女性』になっていた話

結婚式の受付

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ちょっと前の話になる。

 

以前勤めていた会社の先輩の結婚式で受付をまかされた。

二人で受付をやることになりもう一人は当時の会社で後輩だった女の子だった。

彼女と再会したのは5年ぶり位だったと思う。

 

彼女のことをK子(仮名)とする。

 

 

K子は短大を卒業後すぐ入社してきてボクが教育担当になった。

当時ボクは27才で会社の中では中堅としてそこそこ重要な案件を任されていたり、それなりに充実した日々を送っていた。

K子は素直で明るく仕事の覚えも早くなかなか優秀だった。

 

ところがひとつ問題があった。

 

 

K子はボクに対してだけ妙に馴れ馴れしくて明らかに距離感がおかしかった。

この距離感は心の距離だけではなくて物理的な距離もだった。

仕事中はまじめにしているけれど休憩中などは明らか挙動がおかしくなってボクの手を握ってきたり腕を組んだりしてきた。

 

ろくにモテない人生を送ってきたボクはそんな彼女の行動に完全に振り回されていた。

休憩中にK子はしきりに休みの日にボクが何をしているか聞いてきたり、自分は一人で寂しい思いをしているからどこかに連れて行って欲しいと何度もお願いされた。

K子は飛び抜けて美人というわけでは無いが、愛嬌があって可愛らしい娘だったのでお店に来るお客さんにも人気があった。

そんな娘から迫られて嫌な気がする男はいないと思う。

けれどその誘いに乗ることができない理由がボクにはあった。

 

 

当時、ボクは社内恋愛をしていた。

同じ職場の事務員だった女性と、もう2年以上恋愛関係が続いていた。

社内恋愛を禁止していた職場では無かったが、公表してしまえばお互いの仕事に差し支えがあるということで内緒にしていた。

 

そんなわけで社内では彼女がいない体で過ごしていた。

 

だから同僚たちにもK子とボクの関係を冷やかされたり真面目に付き合うべきとアドバイスしてくる人もいた。

事務員の彼女からも「あたしより若いK子に乗り換えてもいいのよ?」などと冗談交じりに言われたりしてボクは狼狽していた。

 

 

もう一度書くがボクはモテない。

 

ずーっとモテない人生を歩んできたのにこの時ばかり突然にこんなことになった。異常事態である。

基本的にモテないから女性の上手い扱い方もわからないし、何よりあしらい方なんてものが自分の人生で必要になるとは思ってもいなかった。

生まれつきモテるような男だったら上手いこと立ちまわって二股をかけたりするんだろうが、ボクにそんな器用な真似ができるはずもなく、どうにもこうにもうまく行かなくて相当に困っていた。

 

そんなボクの事情を知ってか知らずかK子は毎日の様にグイグイと来ていた。

今風に言えばまさに肉食系女子だった。

ボクは完全に狩られる側の草食動物でプルプルと足が震えていたに違いない。

 

彼女が特に何か言うことは無かったけれどボクがK子と一緒にいる時の鋭い視線はヒシヒシと感じていた。

この時の心労はなかなか伝えることは難しい。

 

 

前門の虎、後門の狼。

 

事務員の彼女は普段事務所に詰めているからボクとK子がイチャイチャしているところを直接見ることは殆ど無かったけれど、一日の内何度かは書類の関係でボクが事務所へ訪れることもあった。

今までは他に誰もいなければ、そこで次のデートの日時を決めたりと恋人ならではの会話があったのに、K子が来てからはそんな会話をしたくても彼女は応じてくれなかった。

以前はヤキモチを焼くようなタイプでは無く、どちらかと言えばクールだった彼女が露骨に態度に出してきたことは驚いたけれど少し嬉しくもあった。

 

 

それでもこんな不健全な関係が続くのは誰にとっても良いことでは無いと決心したボクはある日の休日に彼女に相談した。

 

「僕たちの関係をK子に打ち明けよう」

それを聞いた彼女の返答は予想してなかった。

「好きにして。私は関係ないから」

 

正直驚いた。

彼女はボクより年上で離婚歴があり大人の女性だった。

人生の酸いも甘いも嗅ぎ分けてきた彼女のクールで知的なところにボクは惹かれてアタックした。そんな彼女が二十歳そこそこの小娘にヤキモチを焼いていたのだ。

ときどき冗談交じりに、『私より本当は若い子が好きなんでしょ』とか『私はもうおばさんだから将来のことを考えると不安』とか『子供を作るには若くないとダメ』などと自虐的なことを言うことが多々あった。

それらはボクの愛情を確認するためのジョークだと思っていたけれど、彼女なりの苦悩や本音がそこに含まれていたことをこの時に理解した。

 

この一件の後のある日、ボクは意を決してK子を仕事終わりに近くのファミレスへ呼び出した。

「ボクは今、真剣に交際してる人がいます」

確かそんなことを言ったと思う。

K子は一言だけ「わかりました」と言った。

 

 

その数カ月後にK子は会社を辞めた。

もともとやりたかった仕事が見つかったからという理由だった。

 

送別会の日、ボクの耳元でK子は「先輩は事務員の○○さんと付き合ってるんでしょ?」と囁いた。

元来嘘が苦手なボクは確信を突かれ答えに窮していると「やっぱりね」とK子が言ってそのあと笑った……ように見えた。

 

 

彼女とK子の間にボクの知らない何かがあったのかもしれないし無かったのかもしれない。

結局彼女にそのことを聞くことはできなかった。

なぜか聞いてはいけない気がしたからだ。

 

 

その半年後にボクも会社を辞めた。

随分前から誘われていた会社に移るためだった。

会社をやめてからだんだんと彼女との関係が疎遠になっていき、最期は家庭の事情で彼女が東京へ引っ越すことになって、それで関係は終わりになった。

 

 

ここで冒頭の結婚式へ話は戻る。

 

数年ぶりにあったK子はちょっとびっくりするくらいの美人になっていた。

入社時の印象はまだ子供っぽく垢抜けていない少し芋っぽい女の子だった。

化粧も殆どせず明るくさっぱりしたK子はいつの間にか色気を纏った『大人の女性』になっていた。

結婚式に呼ばれたからということもあるだろうが髪もセットしてメイクもばっちりと決めたK子は間違いなく『いい女』だった。

受付の最中はいろいろと忙しかったのでろくに話はできなかったけれど結婚式が終わった後にようやく時間ができた。

 

ホテルのロビーにある喫茶店でコーヒーを飲みながら話をしたはずだが内容をほとんど憶えていない。

ボクは緊張していたのだ。

昔ボクに好意を抱いてくれた女の子が目を瞠るような大人の女性になってしまって面食らっていたと言った方が正しいか。

 

ここで悲しいかな男の性が出た。

もしかして今でもチャンスがあるかもしれないと思い探りを入れたことを憶えている。

けれどK子は、はっきりと言った。

 

「来年の春、結婚するの」

 

そう言ってK子は笑った。

 

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