ネットの海の渚にて

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映画【MUD -マッド】を観たので感想やレビューなど

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久しぶりに良い映画を見た。

そもそもこの作品のことは全く知らなかった。
キャッチコピーが『現代のスタンドバイミー』だったらしいけれど、それは主役の少年の親友役であるネックボーンの風貌が、スタンド・バイ・ミーの頃のリバー・フェニックスを髣髴とさせるからなんだろうと思う。

そういった情報を全く持っていない状態でこの作品を見た時に私も「うおっリバー・フェニックスじゃん」と思わず唸ってしまった。
このネックボーン役の少年の鼻から上は、儚げで影のある美少年だった在りし日のリバー・フェニックスにそっくりなのだが、鼻から下は全く似ていないのであんまり期待しすぎてしまうと肩透かしになるのでご注意を。
ただ全身から醸し出す雰囲気はやっぱり似ているという不思議。


映画の内容として『現代のスタンドバイミー』というのはあまりふさわしくないと思う。
似ているのはネックボーン役の少年の風貌だけで、この映画のテーマは「何歳になっても女に振り回されるアホな男の恋心」ということであって、スタンド・バイ・ミーとは扱っているテーマが違う。

あらすじ

アーカンソー州の片田舎に住む14歳のエリスとネックボーンは、川を下った先にある離れ小島に、先の洪水で流され木の上に打上げられたままの放棄されたボートを見つけた。
これを自分たちの「秘密基地」的なものにしようと企んでいたのだが、いざ乗り込んでみると無人のボートにはなにやら人が住んでいる形跡がある。

そのボートには正体不明の男「マッド-MUD」が住んでいたのだ。

小汚い色あせたシャツにジーンズ。
一見カウボーイ的でもあるが、なにやら訳ありなのはその雰囲気からすぐわかる。
不思議な魅力を持ったマッドに少年たちは引き寄せられて、ある作戦を手伝うことになる。


感想(ネタバレあり)

この作品には主に3人の男が出てくる。

14才の少年エリス。
エリスの父親。
そしてマッド。

この3人にはそれぞれ愛する女性がいるのだが、その女性にいいように翻弄される。
エリスは年上のパールというイケイケの女の子に恋をしている。
エリスの父は長年連れ添った妻との関係がギクシャクして修復は困難。
マッドに至っては惚れた女のために殺人まで犯してしまっている。

マッドを中心にストーリーは回っていくのだが、この3人に共通するのは愛する女性に翻弄されるということだ。


少年のエリス。
青年のマッド。
中年のエリスの父。
この3世代の男たちが見事に女性に振り回される。

3者比べたら一番派手に振り回されているのはマッドなのだが、それにしてもどの世代の男も女性を中心に行動原理が働いていて、同じ男としては気持ちもわかるし身に覚えもあるけれど、だからこそ情けなさもあってなんだか胸が苦しくなる。
結局我ら男はいくつになっても女性の手のひらの上でクルクル踊らされる存在なのだと改めて認識させられる。


この作品は女性に翻弄される男という部分だけが描かれているわけではなくて、それと同じくらいのボリュームで男の友情も描かれている。そちらもしっかり見どころになっているのでご安心を。


少年時代から一途にマッドが恋い焦がれる女性ジェニパーは、長年に渡るその純粋無垢な恋心を知っていながらマッドではなくて次から次へと、それも問題アリの男ばかりに付いて行ってしまう。
そんなジェニパーだから毎回男たちから酷い目に遭うのだが、その度にマッドに泣きつくとマッドが身を挺して助けてくれる。
それでも懲りずに同じことを繰り返すジェニパー。
そのうち今までとはレベルの違う悪い男に引っかかってしまって、ついにマッドは相手を撃ち殺して指名手配犯に身を落としてしまう。
ジェニパーは自分のためにここまで尽くしてくれるマッドをまた裏切ることになるのだが、それでもジェニパーに対して恋心を失わないマッドが物悲しい。

結局この作品では3人の男の恋は全て破綻する。
あえてハッピーエンドにしたら多分この作品の評価は高くない。
破局するからこそ、またこの後もこの男たちのストーリーは続いていくのだなと想像できるラストになっている。

あまり有名な作品ではないし、全編通してオフビートな映像で決してエンタメではない。
だけれどもなんだか鑑賞後はとても心がほんわかする不思議な作品だ。
久しぶりに観てよかったと思わせる作品に出会えた。

(今作はhuluで鑑賞しました)